Lesson10



ハンジが先に到着しており、病院の部屋番号がメールで添付されてきた。早足でリヴァイはその病室へ向かうと、ハンジが立っておりベッドにはナマエが眠っていた。

「容態は?」
「幸いにも骨折とかは無いみたい。はは、頑丈な子だよ・・・ギリギリで車を避けたみたいで頭を強く打ったみたいだ。でも、まだ意識が戻らないらしい」
「頭・・・?ヤベぇじゃねぇか」
「MRIの結果、頭部には異常無いみたい。おでこに何針かは縫ったみたいだけど」

眠っているナマエの手を握れば暖かい。
ホッとしたリヴァイは腰が抜けそうになったが咄嗟にハンジが丸椅子を差し出して座らせると

「私は学校に連絡してくるから。 そばに居てあげな」
「ああ、ありがとう・・・」

ゆっくりと閉じられた扉。
リヴァイは眠っているナマエの手を強く握ると

「・・・良かった」

ぽすん、とベッドに頭を預けると

「お前に謝りたいし、言いてぇ事あるんだ。早く起きろよ・・・ナマエ」

安心したのか、日頃の睡眠不足のせいか、リヴァイも瞼が重くなり目を閉じた。






***





リヴァイは目を開いた。
手を見れば随分と昔に吹き飛んだ手と見えなくなった目は回復しており・・・久しぶりに杖無しで立ち、歩く事が出来ている。

「ここは天国って奴か? 地獄にしては綺麗すぎるよな・・・」

辺りは草原で、足元には色とりどりの花や静かに流れる小川・・・遠くには山もある。ごく普通の自然風景だ。

空を飛んでいる白い鳥を見上げていると

「リヴァイ」

振り向くと、そこにはエルヴィンやハンジ、調査兵団の仲間たちが立っていた。

「お前ら・・・」
「リヴァイ、ありがとう。見届けたよ。」

その言葉に、鼻の奥がツンとしたがリヴァイはそれを隠すようにハッと笑うと

「俺もやっとこっち側の人間になれたって訳だ。またよろしくな」
「ああ。 ・・・だがリヴァイ、お前には会わなきゃいけない人が居るだろう?」

会わなきゃいけない人。
それを聞いてリヴァイは目を見開いたが眉を寄せて俯く。

「ナマエ・・・あいつは俺を恨んでるに違いねぇ」
「それはどうかな?会いに行くといい」
「ナマエなら、あの木が1本立ってる丘で子供たちに勉強を教えてるよ」

ハンジが指さした方向にある丘・・・リヴァイは頷くとその丘へと走って行った。


ナマエに会いたい


会って謝りたい。


・・・しかし、近づくにつれその足取りは重くなって行った。

「・・・はっ、怖いのか」

会うのが怖い、リヴァイはギュッと手を握ると聞き慣れた懐かしい声が聞こえた。


「はーい、今日の授業はここまで!」
「ありがとうございました!」
「先生明日ね!」
「さよなら〜!」
「また明日ねー!」

子供たちは走って丘を駆け下りて遊びに行ってしまう。それを見送る女性が目に行き、目が合ってしまった。

お互い固まり、女性はリヴァイを見ると

「あなた、リヴァイ?」
「・・・ナマエ」

意を決してリヴァイは足を踏み込み丘をゆっくりと上がる。

何十年ぶりに会った愛する人はあの時のままで、驚いた顔でリヴァイを見つめてくる。


「本当にリヴァイ?」
「ああナマエ、俺だ。ナマエ、本当にすまなかっ」


パァン!


右頬に強い衝撃がきてリヴァイはよろけてしまった。顔をあげればナマエはボロボロと涙を流してリヴァイを睨むと

「あなたに会えると思ったのに、ここに居ないじゃない!地獄に落ちたのかと思った!」
「ナマエ、すまなかっ」

パァン!

今度は左頬に衝撃が走る。
ここまで怒った彼女を見るのは初めてでさすがのリヴァイも動揺を隠せず絶句してしまう。

「馬鹿!嘘つき!チビ!」
「ってて・・・オイ、チビは関係ねぇ」
「うるさい!馬鹿!もう最低!何でっ・・・あの時、嘘ついたのよ!私が邪魔だったから?!マーレに女が出来たの?!」

足元に落ちていた石をナマエが掴んだ瞬間、リヴァイは慌てて手首を掴んで止めさせる。

「待て待て待て、邪魔な訳がないだろ! あれから俺はお前しか愛してない!」

声を荒らげるリヴァイにナマエは止まると、リヴァイはポツリと口を開いた。

「俺は、あれから満足に歩けなくなって車椅子の生活だった。そんな世話をお前に任せられねぇし、お前は教師だ。子供達に勉強を教えるのが生きがいのやつに・・・俺こそ邪魔出来ねぇだろ。だったらあっちで他の男を見つけて、幸せに・・・」

尻すぼみになっていくリヴァイ。それを聞いたナマエは呆気に取られ、はあぁ・・・と石をポイッと地面に放り出すとへなへなと座り込んでしまった。

「あなた、馬鹿ね・・・」
「あんまり馬鹿馬鹿言うなよ」
「いいえ、大馬鹿だよ・・・もう・・・」

再び泣き出してしまったナマエにどうしたらいいのかリヴァイは戸惑い、同じく座り込んだ。

「謝っても謝りきれねぇよな。俺も、後悔した」
「でしょうね」
「なあ・・・ナマエ」
「何よ」

膝を抱えて顔を見せてくれないナマエの頭を優しく撫でてやる。

「顔を見せてくれ」
「嫌よ、泣きすぎて酷い顔だもの」
「渡したいのがある」

その言葉にナマエはゆっくりと顔を上げると、リヴァイは目の前に赤いベルベットの箱を差し出した。

「オニャンコポン・・・ファルコとガビの奴、俺の遺言を覚えててくれたな」
「オニャンコ・・・?ファルコ?ガビ?」
「俺の世話をしてくれたやつだ」

死んだら指輪を一緒に入れて欲しいと言う遺言だけを残してリヴァイは旅立った。

その箱を開けば、ナマエは目を見開いた。

「本当は、全て終わったらお前に渡そうと思ってた。まだ、間に合うか?」
「ふ、ふんっ! こっちでいい男と付き合ってたらどうする?」
「・・・居るのか?」

ガーン、と青ざめた顔をするリヴァイにナマエは声を出して笑うと

「居るわけなじゃない。生涯貴方だけよ」
「チッ。ったく、驚かせんじゃねぇ。 ほら、手出せ」
「はーい。」

そう言ってナマエは右手を出してきたがリヴァイは眉を寄せると

「違う、こっちだ」

ナマエの左手を取るとその薬指に指輪を通した。
はめられたダイヤの指輪を見てナマエはまた泣くと、

「えいっ!」
「あ?!おい!」

ナマエは思いっきりリヴァイに抱きつくとそのまま丘を転がり落ちる。 咄嗟にナマエを守るために抱きしめ、やっと止まった所で仰向けになったナマエは子供のように大笑いした。

「相変わらず重いわね、貴方」
「・・・いきなり過ぎるだろ」
「ふふ、懐かしいでしょ」

リヴァイはナマエの亜麻色の髪に絡んだ草を取り除いてやり、ふと目に付いた白い花を取るとナマエの髪に差し込む。

「似合う?」
「ああ。似合ってる」
「ふふっ、ありがとう。・・・で、他に言うことあるでしょ?今度はちゃんと言葉で言ってちょうだい。そうしたら、嘘ついたのは許してあげる。」

あの日を思い出し、リヴァイは口元を緩めると

「ナマエ・・・好きだ」

そう言うとナマエはうん!と嬉しそうに頷き、ゆっくりと唇が重なった。








・・・しかし、2人一緒に居られる時間は限られている。 どんどんと人が増えていくこちらの世界は押し出されるように「次生まれ変わるとしたらどうするか」という設定をしなければならない。

リヴァイもナマエも順番が回り、お互い顔を見合わせる。

「私、生まれ変わっても女で・・・先生になりたい」
「良いんじゃねぇか、お前の天職だ」
「うん。顔はリヴァイみたいな東洋系もいいよねぇ。・・・リヴァイはどうする?」
「俺か・・・掃除で一儲けするか」
「ははっ、お掃除好きだもんね」
「ああ。あとは・・・」

リヴァイはナマエの手を握ると

「次生まれ変わってもお前とまた出逢い、一緒に居たい」
「うん。探すよ、リヴァイの事」
「ああ。俺もお前を見つけ出す」

ナマエを抱きしめると、段々お互いの身体が透けていくのが見えた。

「じゃあ、後で」
「ああ。後でな」




***




ナマエは目を開くと、そこは病室だった。

「夢? んん、あれ、私・・・」

リヴァイとギクシャクしてしまい寝不足になり・・・早く帰って眠ろうと思った矢先、帰宅中に事故に巻き込まれた・・・のは覚えている。

「生きてる・・・ん?」

消毒の独特な匂い、そして誰かに手を握られている感触がして首を動かすと、リヴァイがベッドに突っ伏して眠っていた。

驚いて悲鳴を上げそうになったが、ナマエは口を抑える。

そっとナマエはリヴァイの頭を撫でてやると

「ん・・・?」
「あ、起きちゃった」

リヴァイはゆっくりと顔を上げると目が合い、目を見開くとガバッと立ち上がった。

「おい、大丈夫か!俺が分かるか?!」
「リヴァイさん、ここ病院ですから!しーっ!」
「あ、ああ・・・悪ぃ」

立ち上がった拍子に蹴散らした丸椅子を戻して座り直すとリヴァイは頭を下げた。

「ナマエ、あの時は・・・すまなかった。最低な事をした。」

車の中での出来事を思い出しナマエも俯くと

「いえ、その・・・私も、リヴァイさんのおっしゃる通り警戒心が無かったな・・・って」
「お前は悪くねえだろ」
「リヴァイさん、私・・・あの時、嫌じゃなかった」
「は?」
「嫌じゃなかったけど、あんな形では嫌だとは思いました。 ・・・あのねリヴァイさん、伝えたい事があります」

握っていた手をギュッと握り返し、リヴァイを見つめると顔を真っ赤にして魚のように口をパクパクとさせる。

「あの、その・・・私! リヴァイさんが・・・す、すす」
「オイオイオイ待て待て待て、ストップだ。言わせねぇ。」
「えっ」

止められてしまいサッと顔を青白くさせたナマエを見て、リヴァイは首を振ると

「そう言うもんは俺から言わせろ」
「は、い・・・?」

リヴァイは再びナマエの手を握ると

「好きだ」

そう言うとナマエは涙を零しそうになるが膝を抱えて布団で顔を隠してしまう。顔は耳まで真っ赤で、リヴァイは顔を近づけると

「おい、顔見せろ」
「無理です・・・酷い顔ですから・・・」
「どんな顔でもお前は可愛い」
「うっ・・・リヴァイさんの方が、100倍カッコイイもん・・・」
「嬉しい事言ってくれるのはありがたいが、そろそろ返事が聞きてぇ。」

そう言うとナマエはゆるゆると顔を上げ、真っ赤な顔でリヴァイを見つめると

「・・・私も、リヴァイさんが好きです。大好きです」

リヴァイが立ち上がると同時にナマエは手を広げて抱きしめてくれるリヴァイを受け止める。

胸の中で泣き続けるナマエの頭を撫でると

「・・・俺もな、ハンジのやつに前世ってやつを見せてもらった。」
「ハンジさんも出来るんですね」
「ああ、独学らしいが。 そしたら・・・俺はどうやら教師と恋仲だったみてぇでな。」
「えっ!?」
「相手には幸せになって欲しいとついた嘘が、逆に苦しめちまったらしくてな。・・・まあ、あっちで仲直り出来ただろ。 俺たちみたいに」
「それって・・・・・・うん。」

これ以上は何も語るまい、ナマエはリヴァイの胸から顔を上げると目が合い頬に手を添えられる。

「・・・いいか?」
「はい・・・」

こくりと頷いて、ナマエは目を閉じリヴァイは顔を近づけた瞬間


ガラッ


「やー、ザックレー校長もピクシス副校長もビックリして腰抜かしたみたいで、エルヴィンが困ってたよあははは・・・は」

今まさに唇が重なる寸前・・・リヴァイはハンジを睨みつけると

「ハンジ、てめぇ・・・」
「あはははは!仲直り出来たみたいだね!ハッピーハッピー! ナマエも元気そうだね!」
「は、はい・・・」

顔を真っ赤にさせてリヴァイの胸に隠れると、ハンジはまた大笑いする。

「さっきお医者さんから聞いたけど、目が覚めたらもう帰宅していいってさ!」
「いいのか・・・?」
「脳に異常は無かったみたいだからね。軽傷で良かったよ。 ってな訳でリヴァイ、ナマエよろしくね〜」

ハンジは車のキーを指に引っ掛けてクルクルと回しながらドアを閉めた。



シーンと静まり返った病室。
残された2人は顔を見合わせると

「・・・帰るか」
「はい・・・」

そう言うと荷物をまとめて病院を後にした。






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